2012年4月14日掲載
第6回
それは95年のヤンゴン空港の出国時に起こりました。私は海外調査には機内持ち込みのできる中型バッグを一つだけ持っていくことにしています。トランクが出てくるのを待つ時間がもったいないこともありますが、記録するカメラ、ノート、資料、下着、シャツなど最小限のものなどです。
前の晩に洗えば翌朝は乾きますから、社交の場に出るのでなければ清潔さは保てるものなのです。
さて、その出国です。例のようにバッグ一つと紙袋一つが私の荷物。機内持込みです。
―運命のとまどいの一瞬―
私はX線のチェックを通り抜け、荷物はレールに乗せて検査する時です。
紙袋をレールに置くのに倒れてはいけないと思い、しっかりと立てようとした瞬間、側で見ていた警官が “ストップ”と言って、私を制しました。何が起こったのか分からず“エッ”と思いました。すると警官は紙袋を持って覗き、事務室に招き入れました。まだ何が起こったのか理解できません。
バッグには目もくれず、紙袋からビデオを取り出して、“これは何だ”というのです。ビルマ人から預かったスー・チーさんの演説を撮ったビデオです。
この国では当時NLD(国民民主連盟)の小さなバッヂを持っているだけで咎められるのです。場合によっては投獄されるのです。
―写真を撮られ、あわや…―
事務室でビデオの中身を確かめられ、“なぜ持っているのか。誰からもらったのか。”と尋問するのです。英語です。そのうちもう一人の係官がきて、しきりに電話をあちこちにしています。飛行機の出発時間が迫ってきます。もう載れず、載れないどころか外国人といえども拘束される、と諦めようとしました。時計を見るとあと10分で離陸です。写真を3枚撮られて、また“なぜ、どこで手に入れた”と訊くのです。私は街で知らない人から預かったの一点張りです。その結果は出国を延期させられて…。こんな悪い想像が脳裏を走ります。【つづく】
2012年4月13日 記