2023年8月21日掲載

剣道と44年の付き合い

【18】稽古時間を考える

 剣道は対人競技である。従って常に相手の心、態度を観察することが求められる。相手も3メートルもない距離に、自分を打突しようとしている。もちろんこちらも同じ心、態度で向き合う。試合、審査ではこちらは打たれずに、気勢、姿勢正しく、相手を打つことを目的とする。

 基本技の稽古を出来る相手がいればよい。しかし基本技より打ち合う互角稽古を好む人が多い。剣道は打たれる悔しさよりも、打つ快感を覚えるものである。実際の稽古を見ていると、打った打たれたを繰り返す。稽古の順番を待って何人も並んでいるのに、10分も稽古する人もいる。これでは剣道の理合いを求める稽古ではなく、感情で剣道をしていることになる。審査はせいぜい7段でも、一分三十秒である。審査を終わった時に精魂尽き果てたことを受審者は経験している。毎回の稽古をこの気持ちで行うことが、真剣に稽古するということになる。審査以上に緊張する稽古などはないからである。

惰性の稽古をしない

 では、数分に限って稽古を充実させるのはどうするのか。その日の稽古の目標を持って稽古をすることである。この時に日頃の剣道との向き合い方が、関係する。目の前の相手の他に、隣の稽古の様子なども自然と目に入る。近づいていればぶつからないように、間をあける。稽古の安全のためには必要な配慮である。これすら忘れて夢中になる人もいる。

 極端に言えば一打一打が考えた打ちでなければならない。剣道は武道であると同時に、打った、打たれたのゲームの側面もある。そこに剣道を長く楽しむこととなるきっかけもある。

 だが基本に沿った剣道を求め、全国審査の6段以上を目指そうとすると、楽しみを超えた基本を大切にする剣道が必要であろう。まして高齢者の剣道は自然、体力ではない気、技術を中心としなければならない。感情に任せた惰性の伴う長い時間の稽古ではなく、短時間に集中した、冷静な、理合いにかなった剣道でありたい。それには自分で自分の稽古を組み立てる理性、客観視できる努力が必要である。これは、どうしたら惰性を廃せるか自分を見つめる訓練ともいえる。

2023年8月18日 記